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専門家コラム

2020年01月16日

不動産投資と利回り

現在は超低金利時代ということもあり、普通預金や定期預金などにお金を預けていてもほとんど利息は付きません。こうした状況の中、昨今は株式やFXといったさまざまな形で投資する人も増えてきました。なかでも、目で見ることのできる現物投資のひとつである不動産投資も人気で、不動産投資市場も活況です。ここでは、不動産投資で重要な利回りと都内などの利回りの状況を取り上げてみます。   ・不動産投資の利回りの考え方 ・表面利回りとは? ・実質利回りとは? ・地域別の平均的な利回り ・まとめ

執筆者

秋津 智幸

不動産サポートオフィス 代表コンサルタント

公認不動産コンサルティングマスター・宅地建物取引士・ファイナンシャルプランナー(AFP)
自宅購入、不動産投資、賃貸住宅等不動産全般に関する相談・コンサルティングを行う他、企業研修や各種セミナー講師、書籍、コラム等の執筆・監修にも取り組む。
著書:「賃貸生活A to Z」(アスペクト)、「〔2019~2020年版〕30年後に絶対後悔しない中古マンションの選び方」(監修)(河出書房新社)他

不動産投資の利回りの考え方

不動産投資も投資であることから重要な指標のひとつが「利回り」です。一般的に利回りとは、投資した元本に対する収益の割合を言いますが、単に「利回り」と言うときには、1年当たりの元本に対する収益率である“年利回り”を指すことが多いです。とくに不動産投資であれば、投資額に対する年間の賃料収入の割合を言います。

表面利回りと実質利回り

不動産投資には、おおまかにその物件の収益性を見ることで、簡単に投資判断するための指標となる「表面利回り」と、不動産の運営で必要な経費などを考慮し、より正確な収益性を見るための「実質利回り」という2つの“利回り”があります。   実際の運営上の経費などは非常に細かく、物件によっても必要な費用が異なるため、不動産の収益性を比較する上では、すべての物件で簡単に比較できる指標が必要です。さらに販売上の物件情報として紙面などに掲載できる情報も限られます。そこで、パッと見て投資対象として検討に値するかを判断するために「表面利回り」が利用されています。

表面利回りとは?

表面利回りとは、対象の不動産から得られる年間の賃料収入をその物件価格で割った割合のことです。グロス利回りとも呼ばれます。表面利回りは、どのような不動産であっても賃料収入と物件価格という最低限の情報で求めることができ、ほぼすべての投資対象物件で簡単に計算することができます。そのため、比較するには非常に便利で、最初の段階ではこの表面利回りで投資対象として検討に値するかを判断することが一般的です。   なお、表面利回りを求める際、仮に貸室に空室がある場合でも貸室部分がすべて貸し出されている状態(アパート等であれば満室状態)を想定して求める「満室想定(表面)利回り」と実際に空室となっている部分の賃料収入は除いて計算する「現況(表面)利回り」という指標もあります。もし、実際にその不動産が満室であれば、満室想定利回りと現況利回りは同じ値になります。

計算方法と計算例

表面利回りを計算する式は以下のようになります。 表面利回り = 年間収入 ÷ 物件価格 ×100   <計算例> 毎月の賃料収入が60万円、物件価格が7,200万円のアパートであれば、 表面利回り=(60万円×12ヵ月)÷ 7,200万円 ×100 =10% となります。   この例で、現在は1室空室で毎月の賃料が54万円であれば、賃料収入60万円は満室想定時となり、現況(表面)利回りは9%で、満室想定(表面)利回りが10%ということになります。

実質利回りとは?

実質利回りとは、年間で得られる賃料収入から維持管理にかかった費用を差し引いた実質収益を、不動産の購入にあたって実際にかかった費用(物件価格と諸費用の合計)で割った割合のことです。表面利回りをグロス利回りというのに対してネット利回りとも呼ばれます。   実質利回りを計算することで、表面利回りでは見えなかった収益性の実態が見えるようになります。特に、維持管理にかかる経費が大きい場合、実質利回りを計算してみると表面利回りを見た時点で期待していた収益性がなかったということもあり、不動産投資判断においては重要な指標と言えます。   実質利回りにおいても表面利回りと同じように“満室想定利回り”と“現況利回り”があります。

計算方法と計算例

実質利回り=(年間収入-諸経費)÷(物件価格+購入時の諸経費)×100   <計算例> 毎月の賃料収入が60万円、年間にかかる管理委託費、光熱費、租税公課などの経費が80万円、物件価格が7,200万円、取得経費が500万円のアパートであれば、 実質利回り=(60万円×12ヵ月-80万円)÷ (7,200万円+500万円)×100=8.31% となります。

地域別の平均的な利回り

不動産投資物件の相場を見る場合には、前述の通り計算が容易な表面利回りで比較することになります。利回りは賃料と物件価格によって計算されるため、地域によって大きく異なります。さらに、物件の構造(木造、RC造など)や種類(区分マンションや一棟物件など)、用途(住宅、店舗など)、築年数によっても家賃や物件価格が大きく異なるため、利回りで比較する場合は最低限地域と構造、種類、築年を踏まえて比較する必要があります。   ここで都内や各地方都市の相場を見ておきたいと思いますが、残念ながら実際に個別の不動産を比較する際利用される「表面利回り」に関する調査データがありません。そこで、不動産鑑定などで採用され、調査データのある「期待利回り」という指標でイメージを掴んでいただこうと思います。「期待利回り」とは、簡単に言えば、投資家が不動産に対して期待する利回りのことで、不動産の購入価格に対してどのくらいのリターン(純賃料)を期待しているかという指標になります。あくまで投資家の期待値であり、そのまま取引の相場を表すものではありませんが、「このぐらいの利回りなら投資(購入)してもよい」というものなので、相場の近似値であることは間違いありません。   一般社団法人日本不動産研究所が公表している「第41回不動産投資家調査(2019年10月現在)」の調査結果によると、ワンルームタイプの賃貸住宅一棟の期待利回りは以下のようになっています。   東京都(城南地区)…4.2% 東京都(城東地区)…4.5% 札幌…5.5% 仙台…5.5% 横浜…5.0% 名古屋…5.0% 京都…5.2% 大阪…4.9% 神戸…5.2% 広島…5.7% 福岡…5.1%   期待利回りは、賃料を取得に必要な投資額(物件価格+諸費用)で割り戻しているため、表面利回りよりも低い数値になりますが、収入から運営に必要な経費を差し引かないため実質利回りよりは高いものとなります。この調査データでも相場のイメージ、特に地域の差は掴んでいただけると思いますが、新築中古の別や立地、築年などは考慮せず単純に期待値として平均化されたものなので、あくまで相場のイメージとして捉えてください。   出典:一般財団法人日本不動産研究所|第41回「不動産投資家調査」(2019年10月現在)の調査結果

まとめ

表面利回りは物件を比較し、相場を見るうえでは非常に便利な指標ですが、表面利回りだけでは投資判断を誤る可能性があるため、実質利回りも見ておく必要が出てきます。例えば、表面利回りが周辺相場から見て非常に高い、つまり物件価格が相対的に安い物件でも、年間にかかる経費が高い物件では、実質利回りではそれほど魅力ある物件ではないということが往々にしてあるからです。 簡単に具体例を示すと、【年間家賃収入1,000万円、物件取得費(価格+諸経費)1億円で表面利回り10%の物件A】と【年間家賃収入800万円、物件取得費1億円で表面利回り8%の物件B】があったとします。このとき、物件Aは築年が古く修繕費などで年間経費450万円もかかり、物件Bは築年が新しく年間経費が250万円だとすると、実質利回りは物件A、Bとも5.5%となります。このように実質利回りで見た場合、物件AとBは、同じ収益性となり、表面利回りでは分からなかったものが見えてきます。 満室想定利回りについても前述しましたが、想定されている賃料についてもチェックしておきましょう。周辺相場に比べて想定賃料が高ければ実際にその賃料では入居者が望めない可能性もあり、期待値だけが高くなってしまっている物件もあります。

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