コラム
2022年11月07日不動産活用対策の効果 資産経営に与える効果とリスクを検証
前回まで、「所有資産の現状把握」から「問題点を抽出」「課題・目標の設定」「対策を立案」し、「個別の不動産活用について効果の検証」を行いました。
今回は、不動産活用対策を実行することで「資産経営に与える効果とリスクの検証」を、第1回(2020年夏号)で使用した「資産目録」を使って解説します。
土地活用の検討手順
■ 駐車場の土地を賃貸マンションにして対策
表1から表4は現状(対策前)の「資産目録」「資産集計表」「資産バランスシート」「資産分析表」です。資産診断の結果、現状の問題点として「過大な相続税負担」と「資産全体から見た収益性の低さ」
があがり、それぞれ課題と目標として、資産経営の安全性「自己資本比率50%」を確保した上で、
流動性目標「相続税納税対応力200%」、収益性目標「資本利益率3%」の達成をあげ、対策を検討
することになりました。
検討の結果、資産目録(表1)の「残す不動産」に計上している駐車場土地を下記の様な賃貸マンションとして活用する対策を立案しました。
賃貸マンションの事業性は、個別不動産の効果を検証した結果、良好な計画であることは確認できましたので、次に資産経営に与える効果とリスクを分析していきます。
分析① 資産目録・資産集計表
駐車場土地に賃貸マンションを建てることによって、貸家建付地として土地の相続税評価額が
下がります。
新たに建物2億8千万円が資産として増加しますが、相続税評価額は固定資産税評価額から
借家権割合を減額した1億1千700万円に圧縮されます。
建設資金として、新規借入金3億2千万円が負債に計上され、自己資金2千万円を投資しますので
金融資産は5千万円から3千万円に減少します。
この結果、正味遺産総額は7億2千100万円から4億3千870万円に減少し、一次二次を含めた
推定相続税額は2億682万5千円から9千207万8千円に減少します。
キャッシュフローは、駐車場を賃貸マンションにすることで1千82万2千円から2千184万6千円
に増加します。
分析② 資産バランスシート
隠れた負債である推定相続税を加えた資産バランスシートにより、対策の効果を検証します。
資産総額は10億300万円が12億6千300万円に膨らみますが、賃貸マンション建設に伴う資産圧縮効果により、正味遺産総額(相続税評価)は7億2千100万円から4億3千870万円に減少します。
賃貸マンション建設資金の借入により負債は8千万円から4億円へと増加しますが、推定相続税額も対策効果により減少します。
純資産比率は71%から61%に低下しましたが、安全性指標の50%はクリアしています。
分析③ 資産分析表
安全性
自己資本比率(純資産比率)は、賃貸マンション建設資金の借入により低下しますが、安全性指標の50%は超えています。
同様に収益分岐率・債務回収比率においても、対策前より低下しているものの安全性指標はクリア
しています。
流動性
推定相続税額を含めた流動性評価は、賃貸マンション建設の為の借入金3億2千万円と自己資金
投資2千万円により、101%から55%に低下しますが、土地活用対策の資産圧縮効果により推定
相続税額が2億682万5千円から9千207万8千円に減少し、相続税納税対応力は140%から293%に向上しています。
収益性
キャッシュフローは、1千82万2千円から2千184万6千円に向上します。
賃貸マンション建設により総資産は膨らみますが、各収益性指標が改善され、資本利益率は1.69%
から3.27%に向上しています。
以上の分析の結果、ストックの面から本対策の資産圧縮効果により相続税負担額は対策前に比べて減少し、相続税納税対応力は293%に向上。
フローの面からも、資本利益率が3.27%に改善され、共に目標を達成しています。
借入金により資産全体の流動性の低下と借入返済リスクを負うものの、自己資本比率は61 %と
安全性指標の50%を超えており、収益性・相続税の節税・資産経営の安全性がバランスされた土地活用対策となっています。
目標と現状のギャップを認識し解決すべき問題点を抽出
この事例のように、個別不動産の収益性の分析に加え、所有資産全体の安全性・流動性・収益性を
それぞれ自己資本比率・流動性評価・相続税納税対応力・資本利益率をはじめとした資産分析指標によって、現状と対策後の予測される効果とリスクを客観的に比較検討することで、事業の成立性が明らかになります。
もちろん対策の実行を決断するには不動産の独自性や事業主の個別事情など様々なファクターが
あり、専門家と協力して総合的に判断することが必要ですが、
土地活用の第一のポイントは検討の基本手順を間違えないことです。
「土地活用を通じてどのような未来を実現したいのか」
まず現状を把握し、なりたい未来の姿と現状のギャップを認識することで問題点が抽出されます。
問題点を取り組むべき課題に落とし込み、達成すべき目標を明確にした上で対策を立案します。
様々な対策をストック(流動性)とフロー(収益性)の両面から分析していく中で、予測される効果を
検証し、借入返済をはじめとした経営リスク(安全性)を見極め、実行性に納得した上で有効な対策
を選択します。
こうした手順を踏むことが、目標からぶれない土地活用対策立案のポイントとなります。