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専門家コラム

2020年02月14日

不動産オーナーファミリーの管理業務の引き継ぎ問題8050世代

近年、顕在化してきた社会問題の一つである 「8050問題」。 賃貸不動産を所有するご家庭では、その本来の意味ではなく、同様の年代における親子間のギャップが問題になっています。   ◆不動産オーナー家族の「8050問題」 ◆見過ごされがちな「情報」の引き継ぎ ◆まずは情報のリストアップを ◆少しずつでも関わっていくことが大切  

監修者

高原 誠

フジ相続税理士法人 代表社員

東京都出身。平成17年税理士登録後、平成18年フジ相続税理士法人設立。相続に特化した専門事務所の代表税理士として、不動産評価部門の株式会社フジ総合鑑定鑑定とともに、年間約700件の相続税申告・減額・還付案件に携わる。不動産・保険等の知識を生かした相続実務に定評があり、様々なメディアでの執筆・取材協力も多数。著書に『日本一前向きな相続対策の本』『相続税を納め過ぎないための土地評価の本』(ともに現代書林)などがある。

不動産オーナー家族の「8050問題」

今、深刻な社会問題となっているのが長期的な引きこもりの子を持つ家庭が高齢化し、親が80代、子が50代になってもなお、親が子の面倒を見続ける「8050問題」。 これには該当しなくとも、最近は元気な高齢者が多く、中高年となった子世代の中には、親の高齢化に対する意識が薄い方が少なくないでしょう。そのため、本来の意味とは異なる、不動産オーナーご家族ならではの「8050問題」もまた起こりがちです。 賃貸不動産を所有する親御様が亡くなったり、介護状態になったりして急遽、管理業務を引き継ぐことになったお子様からよく聞かれる言葉が 「突然、不動産管理をすることになり、右も左もわからずに困った」です。 親御様が所有するアパートに何世帯が入居していて、入居者がどんな人なのか、契約期間はいつまでなのか、賃料はいくらなのかといった基本的な情報がわからない。書類も整理されていない。そんな混乱した状況の中、ご自身の仕事もあり、対応に四苦八苦する。 こういった問題が、多くの8050世代のオーナーご家族に起こっています。  

見過ごされがちな「情報」の引き継ぎ

オーナー様は、不動産管理(賃貸経営)の大変さをよくご存知のはずです。では、なぜ元気なうちに管理を引き継げないのでしょうか。 親世代としては、「入居者と長く良好な関係が続いているから、あえて変えるのが面倒」「子供に懐具合を知られたくない」。子世代としては「忙しくて不動産管理に充てる時間がない」「実家が遠い」といった理由などが挙げられるでしょう。不動産そのものの承継にかかる税金などのコスト削減には意欲的な方が多いのですが、不動産に関する様々な「情報」の引き継ぎとなると、その必要性を見過ごし、先延ばしにしている方が多いのです。しかし、情報が伝わっていないことで被る不利益は確実にあります。仲介会社や管理会社との連携、空室対策、入居者の審査、トラブルへの対処、原状回復といった入退去に伴う一連の業務をこなす一方で、中長期的な建物修繕やリノベーションも計画的に行っていく必要があります。 (表1) 慣れない方が手探りで管理していたのでは、何ごとも後手後手になり、余計な費用もかかります。ですから、経験者が隣で伴走しながら指導するのが、時間的にもコスト的にも非常に効率的です。

まずは情報のリストアップを

では、どのように引き継ぎをすればよいのでしょうか。 まずは、親御様が情報を整理することから始めましょう。第一に、不動産に限らず全ての資産・債務をリストアップした財産目録を作ります。これは、資金繰りや相続対策の優先度を検討するうえで必須の資料となります。評価額の算定が難しければ、税理士に相談しましょう。 第二に、物件ごとに賃貸借情報や修繕履歴をまとめます。 (表2) 敷地の境界や私道に関することは当事者の属人的な情報になりがちなので、取り決めなどがある場合は記録に残しておきましょう。地積測量図や建築計画概要書、設計図面などの図面類も整理します。 また、人脈の引き継ぎも大切です。仲介会社や設備会社、税理士など、名刺ファイルでもいいですが、できれば顔合わせをしておくのが理想的です。  

少しずつでも関わっていくことが大切

お子様は、できれば年間を通して諸々の作業を手伝えると、繁忙期・平時・閑散期のサイクルを一通り経験できてベストです。それが難しければ、入居審査や退去立会い、修繕立会いなどのタイミングでもいいでしょう。それも難しければ、相続や不動産に関する本を読む、セミナーに親子で参加する、税理士との打ち合わせに同席するなど、一部分だけでも参加することが重要です。 こうして不動産管理のソフト面(入居関連)とハード面(建物・設備関連)の要領をつかめれば最低限の目的は達成されます。帳簿類の整理、税務申告のレクチャーも忘れてはなりません。「いつか」ではなく、思い立った「今」から少しずつ始めましょう。