コラム
2022年06月28日バランスシートを活用した賃貸経営の安全性分析
前回は事業収支、特にキャッシュフロー表の読み方について紹介しました。
今回は一歩進んで、バランスシート(以下B/S)を活用して資産価値の面から賃貸経営を分析する手法を紹介します。
賃貸経営の状況をバランスシートで把握
B/Sとは、会社のある時点の財務状況を表したもので、「資産」「負債」「純資産」
という三つの部門から構成されています。
「資産」とは会社が保有している財産、「負債」は会社が支払わなければならない
借入金などの支払い義務、「純資産」は資産と負債の差額を表しています。
この差額は会社の正味財産の金額を表しています。
純資産がマイナスであれば債務超過となります。
B/Sは資金の調達方法と運用方法を表しています。
図①のように右側が負債と純資産、左側が資産を表し、
B/Sの右側は「どのようにお金を集めてきたか」
左側は「集めてきたお金が何に運用されているか」
を表しています。
それではこのB/Sを活用した賃貸経営分析を以下のモデル事例に沿って解説していきます。
賃貸経営を始めた当初は、B/Sの右側には資金調達として、負債の部に借入金3億円を
純資産の部に自己資金2千万円を記載します。
B/Sの左側の資産の部には、調達した資金の使い道として、建物3億2千万円を記載します。
事業開始時のB/Sは図②の通りとなります。
ここでは、資産として3億2千万円の賃貸住宅を所有し、負債として3億円の借入があり、
純資産として2千万円の自己資金を投資していることがわかります。
事業開始時点では、資産に対する純資産(=自己資本)の比率が6・3%と資産の大半は
借入金(=他人資本)で賄っていることがわかります。
これは、建物名義は所有者であるものの、実質的には建物のほとんどが他人(借入先)
のもの であるということになります。
借入比率が大きい場合、大幅な家賃下落・空室の増加など急激な収入の減少により
ローン返済ができなくなると、企業であれば経営が立ちいかなくなる恐れがあります。
また逆に純資産比率が大きい場合、特に負債が少なければ少ないほど、
収入減少に耐えることができますので経営が安定します。
続いて20年後・30年後のB/Sを見てみます。
年数の経過に伴って、左側の資産には、家賃収入として現金が積みあがっていきます。
一方、建物は減価償却が進み、価値が下がっていきます。
右側の負債には返済により減少したローン残高が、そして純資産には
利益剰余金が積みあがっていきます。
20年目(図③)には、純資産比率が58%に達し、資産の半分以上が自分のものとなり、
負債に対する現金の倍率も1・2倍と積み上げた現金(現金を全額プールしている場合)
で借入金の一括繰上げ返済が可能な状態であり、経営の安全圏に入ったといえるでしょう。
借入金を完済した時点の 30年目(図④)のB/Sを見てみますと、負債は翌年の支払いとなる
未払所得税等の3百万円のみで、借入金は0円、純資産比率は事実上100%となります。
建物の価値は1億7百万円に下がり、現金は1億6千7百万円に積みあがります。
資産総額は3億2千万円から2億7千4百万円へと4千6百万円下がりますが、
当初2千万円だった純資産は2億7千百万円に増加しその差額は2億5千百万円となります。
つまり、30年間で2億5千百万円の利益を上げ、自己資金の2千万円を引いても、
現金1億4千7百万円を稼い だということになります。
こうなると賃貸経営は成功といえるでしょう。
賃貸経営の安全性は純資産比率で確認
事業収支計画のキャッシュフローと損益計算は資金繰りと損益といった攻めの効果を試算します。
一方B /Sは賃貸経営の資産内容、いわば守りの陣立てを表しており、
資産・負債・純資産(自己資本)といった資産 価値(ストック)の面から
経営の安全性をみていくことができます。
安全性の指標は次の通りとなります。
「純資産比率」:資産総額に対する純資産の割合⇨ 目標 50%以上
「現金/負債倍率」:負債総額に対する現金の割合 ⇨ 目標 1.0倍以上
この目標を何年目に達成すること ができるかがポイントとなります。
例えばモデル事例のように鉄筋コンクリート造賃貸住宅で、
事業開始後 20年以内に純資産比率50%以上、現金/負債倍率1倍以上が
達成できるような事業計画であれば健全な範囲であるといえるでしょう。
B/S的視点から賃貸経営をみていくと、借入金のリスクをよく認識した上で、
純資産をいかに増やせるかが重要だとわかります。
純資産比率(自己資本比率)が高ければ高いほど、負債(借金)が
少なければ少ないほど経営は安定します。
事業計画策定に当たっては、キャッシュフロー・損益計算とB/Sを合わせて
シミュレーションしていくことで、攻めと守りを両立させた健全な事業計画であるかどうかを俯瞰することが可能になります。