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専門家コラム

2020年12月04日

テナントビル建築に伴う 消費税の還付

消費税とは、その名の通り消費者が負担するべき税であり、事業者が負担する義務はありません。 そのため、事業者であるオーナー様が賃貸物件の新築に伴い負担した消費税は還付される場合があります。今回は建物建築に伴う消費税還付の仕組みと注意すべき点についてご説明します。

執筆者

松原 健司

税理士法人FP総合研究所 代表社員 / 税理士

1996年、関西学院大学経済学部卒業。2000年、税理士に登録。その後、税理士法人FP総合研究所において資産統括ゼネラルマネージャー、2014年4月からは東京支店長も兼務。2016年3月に代表社員(CEO)となる。著書に『これならできる!事業継承Q&A』(実務出版)『相続税対策に成功する賃貸住宅の秘訣』(清文社)等がある。資産税・企業経営に強い税理士として、わかりやすいセミナーが参加者から好評で、土地オーナー向けセミナーも多数公演。

◆ 建物の種類により建築費にかかる消費税が 還付されるケース ◆ 消費税の課税事業者になる 事前手続きの注意事項 ◆ 選択する計算式で異なる 仕入控除税額 ◆ 簡易課税制度を 選択している場合の注意事項

テナントビルの建築に伴う 消費税の還付は仕組みを正しく知り、適切な手続きによる賢い活用を

消費税とは、その名の通り消費者が負担するべき税であり、事業者が負担する義務はありません。 そのため、事業者であるオーナー様が賃貸物件の新築に伴い負担した消費税は還付される場合があります

建物の種類により建築費にかかる消費税が 還付されるケース

令和元年 10 月より、消費税が8%から10 %に増税されました。それに伴い、賃貸物件の新築を検討されるオーナー様の建築費にかかる消費税負担も増えることとなりましたが、建築する建物によっては、消費税の還付が受けられるケースがあるのをご存知でしょうか。今回は、建物建築に伴う消費税還付の仕組みについてご説明します。  

消費税は本来消費者が納めるものです。事業者は「消費者から預かった消費税」から事業者が仕入の際に支払った消費税のうち一定の金額(以下「仕入控除税額」)を控除し、その差額を国に納付することとなります。つまり、事業者自身は消費税を負担する必要がありません。同様に建物を建築した場合など、消費者からの預かり消費税より仕入控除税額の方が大きくなる場合には、この差額分が還付されます。これを不動産賃貸業で考えると、消費者にあたるのは入居者なので、オーナー様は事業者となります。そのため、建築費にかかった消費税は、本来事業者が負担するものではないため、国から還付を受けることができます。ただし、これは貸店舗や貸事務所などのテナントビルであることが前提であり、賃貸マンションの場合はこのような還付は受けられません。なぜなら、住宅家賃は非課税となっているので、消費者である入居者は消費税を負担せず、その結果消費者に最も近い事業者であるオーナー様が消費税負担者となっているためです。これまではそのような状況下でも、さまざまなスキームで還付が行われてきた経緯がありました。しかし、令和2年度の税制改正により、一定の経過措置を除くすべての賃貸マンション建築にかかる消費税還付が受けられなくなりましたので注意が必要です。

消費税の課税事業者になる事前手続きの注意事項

次に、テナントビルを建築したケースにおける消費税還付の注意点について確認していきましょう。テナントビルを建築した場合でも、事前に必要な手続きを行っておかないと、還付を受けられなくなるケースがあるので、こちらも注意が必要です。 まず還付を受けるには「消費税の課税事業者」となっておく必要があります。消費税における課税事業者の判定は、基準期間の課税売上が1000万円超であることです。しかし、不動産オーナーの場合、課税売上(非課税売上である住宅家賃等は除く)だけで1000万円を超えることは少なく、多くの方が「免税事 業者」となります。そのため、消費税を納める義務はありませんが、逆に還付を受ける権利もありません。課税事業者になるには還付を受けようとする課税期間の初日の前日までに、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要があります。 届出書の提出期限は必ず確認しておきましょう。  

選択する計算式で異なる仕入控除税額

次に預かり消費税額から控除する仕入控除税額ですが、支払った消費税が全額控除されるのではなく、選択する計算方法により仕入控除税額が異なります。 還付を受けようとする課税期間において、全体売上に占める課税売上の割合(以下「課税売上割合」という)が95%以上の場合には、仕入にかかる消費税全額を控除できますので問題ありませんが、95%未満の場合には「個別対応方式」「一括比例配分方式」いずれかの選択により仕入控除金額が異なります。テナントビルで消費税還付を受けるには、必ず「個別対応方式」を選択してください。 個別対応方式課税売上にのみ要する課税仕入は全額控除が可能。例えば課税売上である賃貸収入を生むためのテナントビル建築にかかる消費税は全額控除の対象になります。 一括比例配分方式:課税期間中の仕入れにかかる消費税のうち、課税売上割合相当分が仕入控除税額となるため、他に住宅家賃収入などがあり、仮に課税売上割合を50%とすると、その期間中に支払った消費税額の50%相当分しか控除できません。

   

簡易課税制度を 選択している場合の注意事項

「簡易課税制度」を選択している場合も注意が必要です。不動産賃貸業の場合、簡易課税は仕入控除税額を実際に仕入にかかった消費税額ではなく、簡易的に課税売上にかかる消費税の 40 %相当額とみなして計算するため、建築に伴い多額の消費税を支払ったとしても、まったく考慮されません。もし、「簡易課税制度」を選択している場合は、還付を受ける課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を提出しておく必要があります。 これら以外にも還付を検討される際には多くの条件、注意点がありますので、実施を検討される際には必ず事前に専門家へご相談ください。

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