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専門家コラム

2020年12月17日

マンション経営の連帯保証人 2020年の民法改正との関係性

マンション経営を行うには、親からの相続で不動産を引き継いだような場合を除き、自己資金に加え、銀行からの借り入れによって資金を調達し、賃貸用不動産を購入してスタートするのが一般的です。その借り入れの際に気になるのが、保証人・連帯保証人。今回はこの保証人・連帯保証人の違いや、民法改正によってこの制度にどんな影響があるかを説明します。

執筆者

田井 能久

不動産コンサルタント

不動産鑑定士として25年のキャリアを持つ。訴訟や調停、並びに相続等の税務申告のための鑑定評価書の作成が得意。 最近はマレーシアを中心としたビザの取得と海外移住のサポートを通して、トータルな資産コンサルティングも展開している。

マンション経営に連帯保証人は必要?

マンション経営において銀行からの借り入れを行うには、基本的に連帯保証人が必要です。   法人の場合、オーナー社長が連帯保証人になることが多く、現在は経営状況によって連帯保証人不要で借り入れを行えることもあります。 個人で配偶者がいれば、多くの場合配偶者が連帯保証人になることが求められます。 ただし、配偶者に拒否されたあるいは独身の場合は、金融機関によって変わりますが団体信用保険(団信)をかければ連帯保証人が不要になることがあります。   では、そもそも連帯保証人とはどいうったことものなのかを見ていましょう。

マンション経営の借入時における連帯保証人とは?

マンション経営における「保証人」とは、不動産を購入する場合に借りた債務に関して、その債務を保証する人をいいます。つまり、ローンを借りた人がお金を返すことができなくなった場合に、その人に代わってローンを返す義務を負う人です。 一方で「連帯保証人」も債務を保証する人である点では変わりませんが、連帯保証人の場合には以下に述べる3つのポイントで保証人と異なる特徴があります。従って似た名称ではありますが、まったく違うものであることに注意が必要です。

保証人がもつ権利は?

保証人にはあるけど、連帯保証人にはない3つのポイントについて説明します。「保証人」であれば、以下の権利を主張することができます。  

  1. 1.催告の抗弁権

「催告」とは債権者が債務者に対し、借金の返済を催促することをいいます。催告の抗弁権はそれを拒否する権利であり、債権者に対し保証人が「まず主債務者に催告してください」と請求することができる権利です。(民法452条)  

  1. 2.検索の抗弁権

主債務者に返済能力があるのにかかわらず、債権者が保証人に債務の履行を求めた場合、保証人が「まず主債務者の財産について強制執行して、返済をしてもらってください」と主張できる権利をいいます。(民法453条)  

  1. 3.分別の利益

保証人間で特約がない場合には、各保証人は平等の割合で分割された額の範囲で保証債務を負担することをいいます。例えば、100万円の借金に対し5人の保証人がいたら、一人の保証人は20万円を返済すれば、そのほかの80万円に関して負担する必要はありません。(民法456条)   一方「連帯保証人」になってしまうと、これらの権利やメリットがありません。つまり「お金を借りたのは債務者だから、まずは債務者に言ってください」や、「まずは債務者の財産で返済してもらってください」という要求が債権者にできなくなります。万一の場合、主債務者が破産や免責により借金の返済から逃れられることができても、連帯保証人の債務は無くならず、その債務の全額を引き継ぐことになります。(破産法253条第2項) 従って連帯保証人になるということは、保証人になるのとは大きく異なります。債務者と同等か、場合によってはそれ以上の責任を負うことになるという点を理解しなければなりません。

2020年4月の民法改正で何が変わったのか?

このように主債務者が借金を返済しなかったり、自己破産をしたりすることによって、よく事情をしらない保証人・連帯保証人多額の借金を背負うなどの悲劇を回避するために、2020年4月に民法が改正されました。約120年ぶりに行われた制度の手直しとなりますが、その主な内容は以下のとおりです。 なお、ここでいう保証人とは連帯保証人も含みます。  

  1. 1.極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となる

根保証契約とは金額の限度を定めないで行う保証契約です。従来の契約書では「連帯保証人は、主債務者と連帯して、本契約から生じる主債務者の一切の債務を負担するものとする」などと表記され、支払う金額が一切決まっていないのに、そのすべての責任を負うこととされていました。   しかしそれではあまりにも責任が重いため、保証人が責任を負う金額の上限(極度額)を書面で定めなければ、契約そのものが無効になるという定めが作られました。  

  1. 2.公証人による保証意思確認手続きの新設

個人が事業用の融資の保証人になろうとする場合(主債務者が法人で、その法人の取締役などが保証人になるなど、主債務者の事業と関係が深い場合などを除く)には、公証人によって保証人となる意思の確認を経なければならないこととなりました。これにより、契約予定の1か月前以内に公証人役場で手続きをする必要があり、この手続きを経ずに保証契約を締結した場合は無効となります。  

  1. 3.情報提供義務の新設

事業用の貸金など債務で、かつ保証人が個人の場合のみですが、主債務者が保証の依頼をする場合には「主債務者の財産や収支の状況」と「主債務以外の債務の金額や履行状況などに関する情報」を提供する必要があります。また主債務の履行状況に関し、主債務者が期限の利益(債権者から請求を受けない権利)を消失した場合、つまり「主債務の返済が滞っている場合」も情報提供義務が発生するなど、保証人に対する情報提供が強化されました。

まとめ

民法改正による保証契約の厳格化は、安易な保証契約を減らし、保証人・連帯保証人になったことで思わぬ借金を背負ってしまうリスクを回避することに役立ちます。一方で、保証人制度を利用する場合に手続きが煩雑になることを意味するので、マンション経営を行いたいと考える人にとっては、融資が受けにくくなるというデメリットも考えられます。   デメリットへの対策としては、まず制度の変更内容を理解し、保証人不要でも融資をしてもらえるように自己資本を多く入れるべきでしょう。また物的担保として安心なもの、つまり担保物件の収益力だけで十分に返済が可能と考えられる好立地物件を厳選して不動産投資を行う必要があるといえます。   民法が改正されても保証人制度そのものがなくなるわけではないので、今後も保証人・連帯保証人の必要性は残ります。しかし今回の民法改正は、融資にあたって重視される点が人からモノへ、つまり不動産そのものの価値に、より重きを置かれるきっかけになることでしょう。

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