専門家コラム
2026年06月03日~問題が起こる、〝その前〟に~ 〝入居者の高齢化〟のリスクに備えておくべきこととは

今後、大きな問題として顕在化していくことが予想される〝入居者様の高齢化〟。
実は早めの対応が肝要なこの問題について、株式会社ハウスメイトマネジメント 伊部尚子様に心得ておくべき対処法などを伺いました。
今後の課題となる入居者の高齢化問題
2025年に〝団塊の世代〟が75歳以上の後期高齢者となったことで、日本社会に様々な問題が起こるとされています。賃貸経営において今後大きくなるのが〝入居者様の高齢化〟問題ではないでしょうか。
「現在では、賃貸物件が高齢者の方々の〝終の棲家〟となるケースが増えました」とお話しくださったのは、高齢者の住まい問題に長年取り組まれている伊部尚子様。伊部様が勤務する株式会社ハウスメイトマネジメントに賃貸物件を探しにくるお客様も、高齢化が進んでいるそうです。しかし、家賃滞納や孤独死などのリスクを懸念し、高齢者の入居を拒むオーナー様は少なくありません。
住まい確保が困難な人を救う住宅セーフティネット法
政府もこれを問題視しており、高齢者や低額所得者など住まいの確保が困難な人々を救済し、一方で、空き物件を解消する制度「住宅セーフティネット法(住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律)」を2017年に改正。住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度、専用住宅の改修・入居に向けた経済的支援、住宅確保要配慮者と住宅のマッチングと居住支援の3つを柱とした制度が新たに創設されました。(図1)

2021年には国土交通省と法務省が『残置物の処理等に関するモデル契約条項』を発表。入居者様が亡くなってしまった場合の円滑な賃貸借契約の解除と残置物の処分を可能とする注目すべき仕組みです。借家人の死亡時に賃貸借契約が終了する(賃借権が相続されない)『終身建物賃貸借標準契約書』のひな形も併せて改訂されています。2025年10月には住宅セーフティネット法のさらなる改正も行われ、オーナー様がより賃貸住宅を提供しやすく、要配慮者が円滑に入居できる市場環境の整備が進められています。(図2)

入居者様を取り巻く情報のアップデートが必要
しかし、この制度でも解消できないのが、〝既に入居中〟の方の高齢化問題。更新を重ねるうちに入居者様が高齢化している事実に気づかないケースは少なくありません。
「管理会社の業務内容は、通常、建物の維持管理と家賃集金管理まで。つまり、生活がままならなくなった入居者様への対応は想定されておらず、気づかぬ間に事態が深刻化しかねません」と伊部様。入居契約時の状況から変化しているのは入居者様本人の年齢や職業だけでなく、家族構成、保証人の年齢など入居者様を取り巻く状況も変化しています。伊部様たちも、現在、入居者様の状況確認を進めているそう。
「確認には、1軒ずつご訪問して回っています。皆さん気さくにお話ししてくれて、健康状態、将来は施設に移る予定なのか、近くに頼れる身内がいるのかなど、何気ない会話の中から得られる情報は多いです。最優先で着手すべきは〝現状把握〟で、入居者様が元気なうちに連絡先や身元引受人の役割を担う人をできるだけ詳しく把握しておきましょう。物件から離れたお住まいで管理会社に任せている場合は、心配事を伝えて相談するといいですよ」
〝入口〟の段階で〝出口〟を見据えた契約を
契約内容は更新時にご本人の合意があれば見直せるそうですが、できるだけ入居時に契約内容を整えておくことが有効。「定期借家契約にする、契約内容に一人では生活が出来なくなった場合の『身元引受人』を入れるなど、入口の段階で出口を見据えた契約を心がけてください」
今後、『残置物の処理等に関するモデル契約条項』の内容がパッケージ化され、賃貸借契約の解約時や荷物処分時の問題が解決できる保証商品が増えることも期待されています。
高齢者の受入れは〝リスク〟だけではなく〝メリット〟も
高齢者の賃貸住宅へのニーズは今後さらに高まると推測されます。高齢者の受入れには、長期間の安定した入居、丁寧な物件使用、若い層が敬遠しがちな1階や畳の部屋を好む、といったメリットも期待できます。
「家を貸すというのは、ただ〝箱〟を貸すだけではなく、入居者様の生活を預かるということなんです」とおっしゃる伊部様。住まいの確保が困難な高齢者を受入れることは〝リスク〟だけではなく〝貢献〟でもあります。
「見守りサービスなどの商品を利用するほか、地域包括支援センターなどに入居者様の情報を共有しておくことで、オーナー様だけでなく、皆で高齢者を見守れる体制づくりができます。まずは高齢の入居者様を気軽に訪ねることから始めてみてくださいね」




